劇場版 新ヘタレ戦記 ノーテンW ~Endless Risoku~
前書 き
期待と不安を抱いて出て行った社会。
思い返してみれば懐かしくも感じています。
いつのまにか有名人の訃報に驚いたり、結婚や出産に嬉しさや寂しさを覚えたり、子供の頃から見ていたアーティストの解散コンサートがあったり、来年は年号も変わろうとしています。
まだまだ若いと言えるかもしれないけど、それまで歩いてきた足跡は自分の小さな歴史なになっているんだなと思います。
夏の終わりを知らせる穏やかな雨も止んで、特に何もすることがない祝日の夜。
静かな喫茶店で夕食を終えた大学生達のほのぼのした笑い声を聞きながらこれを書きはじめました。
大した物語ではありませんし、万人ウケるものではないことは承知しています。
これを見てくれた名前も知らない何処かの誰かの中に響いてくれたらと思い、書いていこうと思います。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
私の好きな作品達にも敬意を込めて
劇場版
新ヘタレ戦記 ノーテンW(ウイング)
〜Endless Risoku〜
お世話になった東京の仕事場を離れて、また、一人を謳歌していた都内の部屋も出て、ノーテンは地元に帰ってきた。
まだまだ東京に未練はあったと思う。しかし、あのまま居続けても自分の首を絞めるだけだったからこれでよかったのだ。ノーテンはそう思い、また、こんな自分が地元の病院に就職できたことに喜びを感じ、すべてが0になったらまた歩き始めようなんて思っていた。
新しい仕事場では、はじめは緊張したものの皆に歓迎された。
もちろん不安はあった。また人間関係で衝突してしまうのではないか、自分のミスを受け入れられないのではないか、これまでのことが脳裏に浮かんだ。
「人生、そういうこともある」
部長の一言に救われた。
「こういう時は気持ちこうすればOK」
先輩の朗らかさに救われた。
ほとんど実家と職場を行き来する毎日。車通勤になったおかげで、まったく体を動かさなくなり、家に帰れば親の作ったご飯をたらふく食った。食費を切り詰めていた一人暮らしに比べたら本当にありがたみを感じる生活だった。気がついたらノーテンは10キロ増量してしまっていた。
そして初めての給料日。都内と比べれば少し下がってしまったが、それでも正職員だった。もう住民税や保険料の支払いに頭を抱えることもない。来るべく月が来れば貰うものも貰える。やっと選ばれし者になったんだと大げさに思っていた。
...それと共にやってくるものもあった。
誰にも相談せず、自分で犯してしまった罪。しかし、それに頼らざるを得なくなった現状。「負の遺産」として持帰ってしまったものだ。
それまで パートで働いてきたため、先月分の給与が入ることになったが、焼け石に水だった。どうしてこうなったのかわからないくらいその時点で負の遺産は膨れあがっていた。実家にいて家賃もなくなり、傍から見れば「お金がたまるね~」なんて会話もされたが、実際のところそんな余裕はなかった。
誰に言うつもりもなく、このまま一人でこの罪を償っていく行くつもりだった。
「あと何年だ。俺はあと何年、罪を償い続ければ、この戦いから解放されんだ・・」
計算なんかししてもわからなかった。複利計算は最も苦手とした分野でもある。このまま終わることのない利息に踊らされて生活をしてしまうのか...。とにかくすべてを0にしたい。そのために実家に帰ってきたんだ!!
当時、成り行きで付き合った彼女とはまだ続いていた。実家に帰り、プチ遠距離となったが休みの日にデートをすることになった。
その最中、スマホに着信があった。母親からだった。なんだろう・・?
ちょっと待っていて!と言って、隅でかけなおした。
「もしもし?今日は早く帰って来れる??」
こんなことをきいてくるなんて何かあったのかと思った。親父の体調が悪いとか?
「父さんがあなたに話したいことがあるって。」
ん?めずらしいこともあるなぁ・・。今日は(デートだから)帰りは遅いよと言った。
「いや、早く帰って来れないかな?」
えっ?本当にどうしたの??なにかあったの!?
「負の遺産のことだよ!!!!!」
つうこんのいちげき!!!!!!!!
完全な不意打ちにノーテンはノックアウトだった。もう動揺を隠しきれなかった。
えっ..なんで、どうして...?
当然、デートなんか続けれれるわけがなかった。
事情を隠し切れず、ついに相手にも話してまい、最高にダサかった。
その日は飯も喉も通らず、早く帰宅した。
居間で母親が待っていた。
「・・お前がこんなことをするなんて思っていもいなかった。」
・・・・
「東京で一人暮らしをして何をやっていたんだ」
・・・・・・
「お前が仕事を辞めたことは前から知っていたよ。うちに国民年金の電話がかかってきたからね。」
・・・・・・・・・!?
「まぁ、本題だけれど、あなたの今、抱えているものをすべて教えなさい。すべて出してあげるから。」
・・は?
「全部でどれくらいなの?」
「いや、待てよ!いらないよ。すべて自分働いた分でで返すから!!」
やっと声が出た。ここで親にすべてを0にしてもらう?冗談じゃない!!今まではなんだったのか。自分のケツは自分で拭かなければならないんだ!!
「すべてを0にしなさい!!」
何を言っても会話にならず、はなからこっちの話など聞くつもりはなかったのだ。とにかく0にしてやるからその分を働いて返せと。
そうしてもらった方が楽なのに。素直に受け止められられなかった。自分で自分のケツを拭く?それができなかったからここまできたんだろう。自分で自分の首を絞めてばかり。世間ではアラサーと言われる歳になっているのに。いつまでもくだらないプライドを持って、ガキみたいな感情に支配されてしまっていた。
「わざわざ利息を付けて払う必要なんてないんだよ。それはあなたの未来を苦めるんだよ。」
張り詰めた中にも見せる母親のやさしさ。
そのやさしさを受け止めきれない愚か者。
「そうやっ甘やかすなよ!!なんでいつも・・・」
「バカヤロー!!てめーがまともな生活をしていなかったからだろぉぉ!!!」
母親ではなく、隅で聞いていた父親に大喝された。
十分な気迫、適切な姿勢、残心もあり、主審、副審、全員一致で旗が上がった。
一本、
勝負ありだった・・。
それからしばらく自問自答した。
もう一度、話し合うか。おまとめローンを考えるか・・。
もう逃げることも誤魔化すこともできなかった。
情けない。
死んでしまいたい。
自分の人生はどうしてこうなんだろう。
心臓が気持ち悪いくらいバクバクしている。
手には冷や汗を握っている。
でもこれでやっと・・。
同じことが頭の中でぐるぐる回っていて思考は止まっているに等しい
不安と焦りと、少し安心した気持ちでいっぱいで、まともに考えられることなんてできなかった
未来を苦しめる・・。
考えたこともなかった。ずっと今しか考えていなかった
もう、やるしかないのか・・
ノーテンは首を上げて立ち上がった
「・・ターゲット確認。」
負の遺産をロックオンした
「目標・・・負の遺産」
銃口が光る
「最大出力!!」
対象を凌ぐ勢いで発射された
あまりの威力に銃身はゆっくり溶けていく・・
ノーテンの頭の中にこれまでの思い出が浮かんできた
初めて一人暮らしに感極まったこと
自信をなくして自爆をしてしまったこと
ニートになったこと
あの日の夕日
しょうもない男を拾って仕事を教えてくれたお母さん上司
その人に向けた銃口
成り行きで付き合った彼女
「くっ・・!」
ガンダムといっていたプライド
反動で機体もろとも負の遺産は消滅した
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
計算をしてみたら毎月、少しづつ返しても利息を入れたら最低は3年以上はかかるのではないかと思われた。今も少し抱えていた可能性も考えられる。
大きなものを買ったわけでもない
ただ、時間と労力を消費して背負ってしまっただけのものだった
安易に手を出してしまったものがここまで引きずるなんて思ってもいなかっただろう
社会勉強の費用と言ったら皮肉だろうか
プライドも信頼も、また、彼女もいなくなり、ただ新しい環境で頑張るしかなかった
同級生は相次いで結婚したり、仕事辞めて学校に通いなおしたり、貯金を使って夢を追いかけたりしている人もいる
どうにもできない焦りを感じて、街コンにいってもビジネスの勧誘をされたり、酒を飲んでも以前よりも酔いが回るし、抜けるの遅くなったような気がした
少しづつ、自分が若かったんだと感じることが多くなってきた
そんな中でも車の運転をして遠くに行ってみたり、続けていた剣道の昇段審査を受けてみたり、少しづつ貯めたお金ではじめての海外旅行をしてみたり、楽しいことはあった
世間ではISのニュースに衝撃が走ったり、妖怪ウォッチ、君の名は、恋ダンス、リオジャネイロオリンピック、九州で地震、SMAP解散、堀北真希結婚&芸能界引退、いいとも、とんねるず、めちゃイケが終わるだの・・
いつの間にか20代最後の夏が来ていた
すべてを返し終えてノーテンはようやく肩の荷が下りた
これからが人生なのかな・・
それでも現状に対しる不満や不安はたくさんあった
そんな気持ちを吐き出すためにつぶやいていたSNS
いつのまにかやりとりが楽しくなり、毎日見てしてしまうようになっていた
これからどうしようかな・・。
いろんな不安を抱えながらも、自分が持つべきプライド
もう一度、キマグレガンダムに乗った
かつては自爆してしまった機体
コクピットに触れた時、これまでと違う何かを感じた
いろんな人に支えてもらい、つないでもらったプライド
もしかした小さな自信となったのかしれない
それでもまだ不安はいっぱいあるけれど・・
こんな自分でもできることはあるし、持っているものがある
それを疑っても仕方ないし、大げさだけどそれで今は戦っていくことはできる
戦いとかかっこつけた言い方よりも、一人でなんて生きてないし、家族をはじめ、いろんな人に支えられているといった方が良いかもしれない
そこに気が付いたからこれからも大切にしていきたい
人生って思い描いたようにいかないけれど、歩いてきたものがきっと力になってくれるし、何が起こるか予測不可能だからとにかく生きてみるしかない
そんな風に思えるようになりました
物語としては仕事とプライベートがメインで、どちらというと男目線な部分もあるかもしれませんが…。
腐らずにこれからも頑張ってきたいと思います。
長らくお付き合いいただき本当にありがとうございました!
新ヘタレ戦記 ノーテンW(ウイング)
完
エンディング